インスタレーション

 

 

台北當代藝術館/台湾/2013年
撮影/荒井 孝

 

インスタレーション/大樹公祭/森と木のプロジェクト/
巨樹を訪ねて-台湾/制作風景

「大樹公祭」

台湾には土地公という土地の神様を主体にガジュマルの神、榕樹公(Banyan Tree),アカギの神、茄苳公(Bischofia javanica)といった木の神様が存在する。
大樹公祭は16歳になるまで、子供が大樹公(巨樹の神様)の神と擬似的な親子関係を結び、子供の運命を改善しようとする台湾に伝わる義子、義女の信仰。
旧暦の中秋節(2013年は9月19日)は大樹公の誕生日とされ、子供達はこの日にアカギの葉と硬貨で作られた新しいお守りを受け取り、それを身に着けて参拝する。
大樹公からその生命力を授かり、子供の成長を願うことを意味している。

「森と木のプロジェクト」

私は日本人が信仰によって守ってきた木、生活の中で大切な意味を持っている木々を訪ねる「森と木のプロジェクト」を2008年より続けてきました。
神木、巨樹を訪ね、その木々にまつわる言い伝え、風習、儀式などを取材し、我々の先祖が樹木や杜といかに深い関わりを持ってきたかを知り、その中から作品へのテーマ、イメージを見つけながら制作をしています。

「巨樹を訪ねてー台湾」

あなたの暮らしの中に大切にしている存在の木がありますか?
あなたの記憶の中に木にまつわる思い出がありますか?
日本では古来より、山、森(杜)、巨石、巨樹などの自然物が崇拝の対象とされ、一本の木、ひとつの石にも神が宿るといった自然信仰がなされてきました。
私はこの信仰心により守られてきた自然に興味を持ち、鎮守の森、神木などをテーマに制作を続けています。
展覧会、アーティストインレジデンスなどで何度か訪れている台湾には豊かな自然と独自の民俗文化があり、それらによって自然がどのように守られてきたかに興味がありました。
守られ、護持されてきた木々にフォーカスをあてることにより、それとは対照的に失われつつある伝統的風習、自然環境も浮き彫りにされてくるでしょう。

質問: あなたの住んでいる町、村、故郷にご神木、Wishing Tree(願い事をかなえる木)、
山の神様、田の神様などとよばれている木がありますか?
-その木にまつわる物語、風習、儀式などがありましたら教えてください。
あなたの家族、先祖が大切にしている特別な木がありますか?
-その木について伝わる物語、風習、儀式などがあれば教えて下さい。

2013年5月より台北當代藝術館、のウェブサイトを通じてこれらの質問を発信しましたが、残念ながら個人的な情報は寄せられていません。
2013年6月、台湾林務局の協力を得て、台湾中南部の神木、老樹を訪ね取材をする機会に恵まれました。 短い期間でしたが、日本人と台湾人の自然感、信仰に対する相違点を感じ取ることができました。これらの取材をベースに、9月1日より草山國際芸術村に滞在、更に神木、寺院を訪ねながら制作を開始しました。
台湾での取材では、街の開発や車の排気ガス汚染によりダメージを受けたり、枯れてしまった老樹も目にしました。神木の周囲をコンクリートで固め、木の根元に重い祠が作られ、老樹の負担になっているように感じた光景も忘れられません。
日本でも、台湾でも感じたことは、我々人間は自分達の生活に都合の良いように自然形態をも変えてゆこうとしているという現実です。
一度失ってしまった自然はもとの形にもどすことはできません。
ヨーロッパ、ケルト民族の風習に伝わる、人の願いをかなえると言われる“Wishing Tree”
今、私達が木々、自然の声(願い)に耳を傾けなければならない時に来ているのではないでしょうか?

現在はまだ制作の途中ですが、今回台湾での取材は短く、不充分だったと実感しています。1人のアーティストが訪ね歩き、巡り合える木々には限りがあるでしょう。
しかし、今回のプロジェクト、台北當代藝術館(MOCA Taipei)での展覧会を通して私が出会う1人ひとりがそれぞれの生活の身近に存在する神木、老樹に目を向け、興味を持っていただくこと、それが台湾の中で更に広く“自然を守ってゆく意識”に繋がっていって欲しいと願っています。
最後に、MOCA Taipei他、今回のプロジェクト、制作のため協力していただいた方々に心から感謝します。
台湾林務局、SuHo記念紙文化基金館、石州和紙西田製紙所、無印良品計画、頼明朱、荒井孝、長倉健一、福田文子、Ritva Kovalainen、Awagami Factory,神山アーティスト・イン・レジデンスプログラム

2013年10月5日  楡木令子

制作風景

菊の王 酒蔵アトリエ / 徳島県阿波市 / 2013年8月

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