川岸に流れ着いた流木が魂を求める旅に出ました。
 
中秋節の夜に流木がであったのは?

鎮守の杜
 
 ここは山奥の小さな村。
 嵐の去ったあと、川のよどみに流木が集まってきました。

 川辺には鎮守の杜の守り神である楠の大木がありました。
 その祠に住むフクロウが、風に乗って飛んできて流木に止まりました。

 すると流木はゆっくりと動き出し、
 人のかたちのように集まり、
 そろり と立ち上がりました。


流木は川面に写った自分の姿に驚きます
 
 心のない空っぽな体、枯れ木をつないだような手足。
 「 なんという姿だ。 」

 周りを自由に飛び回る鳥達が、流木の目にうらやましく映ります。


新月の晩
 
 流木はフクロウから、山奥にある老樹のところに行けば
 願いがかなうと教えられます。
 ただしそれは、一年に一度。
 老樹の誕生を祝う中秋節の満月の夜だけです。

 流木は、魂を求める旅に出ることを決心しました。


旅の風景
 
 満月に間に合うよう、急がなくてはなりません。

夕暮れの風景 から 夜の森へ
 
 日が暮れかかる頃、流木はようやく老樹の場所にたどりつきました。
 しかし大木は嵐に倒れ、その姿はありません。
 今は、大きな木の株と根っこが残っているだけです。
  
 「 老樹の命はもう亡くなってしまったのか。 」
 流木はたいへんがっかりしました。

 あたりはだんだん暗くなってゆきます。
 風がビュービューと吹き荒れ、森は闇に包まれてゆきました。
 流木は悲しみと疲れで木の根元に座り込み、眠ってしまいました。


満月の森
 
 夢の中で満月に照らされた老樹が姿を現しました。
 千年以上も生きた大木です。
 木の精霊があらわれ、流木に言いました。

 「 おまえの命はこの大木から生れたのだ。 
 求めていた、勇気、自信、優しさ、嬉しさを感じる心は
 すでに、おまえの魂に宿っているのだ。 」 

流木はその事に気づいていなかっただけでした。


精霊の言葉に、流木は幸せな気持ちでいっぱいになりました。
 
体の中が温かいエネルギーで満たされてゆくのを感じます。

朝の森
 
 風もおさまり、森に静かな朝がやってきました。
 そこには流木の姿はありません。
 老樹の根元から小さな蘖が生えています。

 あたらしい命の誕生です。


流木之旅 2018
和紙にミクストメディア
台北国際芸術村・草山行館/台湾/2018年

Exhibition information

「 魂の宿るところ-流木の旅 」

「 魂の宿るところ-Where the soul is 」は私が1997年より作品テーマにしている
シリーズのひとつです。

「魂の宿るところ-流木の旅 」は、2018年1~5月滞在制作したKAIR ―神山アーティスト・イン・レジデンス・徳島県 ―におけるパフォーマンス公演のため生まれた物語です。
心を持たないと悲しんでいる流木が、魂を求める旅に出ます。木の精霊と出会い、求めているものはすべて自分自身の中に宿っている事に気づかされます。
今回は、このストーリーを基にした舞台美術の模型となる作品を制作しました。

2013年草山行館で滞在制作、台北當代芸術館で開催した「 許願樹―The Wishing Tree 」展にひき続き、神木、巨樹をテーマに、陽明山、草山の自然からインスピレーションを得た風景、物語を手漉き和紙に描いています。楮という植物繊維から作られた和紙は、光を通した時に最も美しく見えます。素材の特徴を生かした作品を草山の景色とともに楽しんでいただけましたら幸いです。

滞在制作に関して協力していただいた草山行館スタッフ、流木人形制作に協力していただいたアーティスト、物語の翻訳を手がけてくださった頼明珠さんに心から感謝しています。

2018年11月
楡木令子