私が制作してゆく過程で自分の中に残像のように存在する“ある感覚”が様々なかたちで表現されている事に気づく。それらは単に視覚、触覚的な記憶が立体や平面に置き換えられてゆくといったものではなく、ある時間ある場所での音、色、匂い、そして肌に触れた水や土、空気の温度、出会った人々の表情や通り過ぎていった風の感触など様々な“感覚”である。

いつからか私は記録、記念のための写真をほとんど撮らなくなってしまった。それは多分自分自身の中にこれらの感覚の記憶が豊かに蓄積されてゆく実感があるからだと思う。

私が長年親しんでいる紙、竹、土という作品の皮膚となる素材を手にしながらこれらの感覚と対話しながら制作するのは何より楽しい作業である。

タイムコラージュのようにして記憶をつなぎあわせながら次の風景は生まれてゆく。

「Both Sides」展では、1999年埼玉県飯能市O-ne Manokurozasuでの展示風景からスタートし、その後滞在制作をした南インドでの時を辿りAnother Landscapeを描いてゆく。

楡木令子

日本-フィンランド現代美術展(2004.9-12)
C.A.P. HOUSE(神戸,2004年)
撮影 / 高嶋 清俊

 

Another Landscape 2004

インスタレーション
楡木がインドで撮影した写真より、6つのイメージ-色、巨樹、人々の後ろ姿、寺院、石窟、回廊-によるスライド写真を立体作品に投影。


第2回 「Both Sides ― 不二」

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